今、何故フラップレス・レーシックなのか リンク

 
「今、何故フラップレス・レーシックなのでしょうか」
我が国で30年前に医師として初めて近視手術を受けた立場から解説致します。
近視手術をレーザーで行うには、さまざまな方法があります。
フラップレス・レーシックは通常のレーシックとは違います
PRKの仲間であるフラップレス・レーシックは、太いレーザービームを当てる視力矯正法です。
PRKは厚労省が最初に認めたレーザー近視手術です。

▲フラップレス・レーシックの動画(※1)
 
▲レーシックの動画(※2)

フラップレス・レーシックは(※1)の様な太いビームを一括照射するため、照射深度を角膜のコンデションに左右
されずに目視出来るので、フタを作らずにレーザーを当てるだけで済みます。

一方、レーシック(※2)は細いレーザービームを走査して照射する為、コンデションに左右される角膜上皮は不確定
要因であり、照射深度を視認する際に邪魔になります。

フタを作らずにレーザーを当てる角膜屈折手術としては、他にスマイルSMILEの頭文字を冠したフェムト秒レーザー
手術が開発されました。(実技角膜屈折手術、267P,南山堂1997年)角膜実質層の一部をレンズ状にくり抜い
て矯正をはかる手術です。
一方、フタを作るレーシックは、細いレーザービームをコンデションに左右され易い角膜表面に走査するので、照射
深度が目視できず、角膜をカットして上皮をドア状のフラップ(蓋)の中に閉じ込めた後に、実質層から照射します。
フラップを開いてレーザーで角膜実質を削ってからフラップを元に戻す一連の操作は、ヘイズと呼ばれる一過性角膜 混濁対策として生まれました。上皮層に混濁要因があり、照射を受けないようにフタの中に閉じ込める必要がありま
した。その後、ヘイズ予防薬が発見され、フタを作る意義は薄れましたが、フラップは作リ続けられています。

フタを作るには、肯定、否定の両側面があります。
肯定面は、術後の痛みや、視力回復に要する時間が少ないことです。
否定面はフタづくりに関連して、術中術後の様々なリスクと術後に眼の調節負担が大きくなる可能性です。
2011年に起きた銀座レーシック事件は記憶に在ると思いますが、フタづくりに関連して起こされた多発感染事件
でした。
2013年に消費者庁が指摘した「矯正され過ぎ」事件は、ドライアイ、頭痛、肩こり等の現象を伴い、術後に眼の
調節負担が増したことによると考えられます。
 
眼の調節負担の増加はどうして起きるのでしょうか。
次の図(※3)(McDonnel-Thompson共著カラーアトラスエキシマレーザー角膜屈折矯正手術、医学書院1994年)
右側のマルチプルステップは、角膜蒸散によるPRKやフラップレス・レーシックのレーザー矯正面が可変直径的に
矯正移行帯を設けていることを示します。移行帯は、中間距離や近距離の視力に配慮し、術後の調節負担を軽減し
ます。可変直径角膜蒸散は、強度近視矯正時に角膜蒸散量を少なくするとともに、術後の近視の戻りを小さくする
ために開発されました。
ところが左側のシングルステップが示すレーシックの場合は、フタを作る為に近視の戻りは少なくなりましたが、
矯正に資する角膜の厚さがフタに殉じて足りなくなり、移行帯が小さく、術後の調節負担が増加すると考えられます。

(※3)
PRKやフラップレス・レーシックのレーザー矯正面に設けられている矯正移行帯

レーシックの動画(※2)で、走査ビームにおいて移行帯が十分にセットされているように思えません。

消費者庁が指摘した、2009年頃から「矯正され過ぎ」に伴うドライアイ、頭痛、肩こりの症状は、レーシック
の隆盛と共に多くなります。眼科医に相談しても手術後の角膜解析が正常で、症状に応じて神経内科医や精神科医
を紹介されるという、いわゆるレーシック難民が生まれ、最終的に消費者庁へ駆け込んだのではないでしょうか。

2009年以前のフタを作らなかった頃には、術後の過矯正を含む遠視合併はありましたが、今回の様な角膜解析
上問題がない「矯正されすぎ」による事象は記録されていないようです。
レーシックによる仕上がりは完璧でも、矯正面が調節負担を強いるならば、有名な臨床医ウイリアム・オスラー
博士の言葉が思いだされます。「病気ばかり診ないで、病人を診なければならない」もしくは「病気を治しても、
病人を治さなければ意味がない」という言葉に通じます。
この問題は、30年前に近視手術を受けた私にとって、生涯におよぶ臨床テーマです。
特に注意したいのは、40歳以上の軽い近視の同時両眼手術です。
神様が目を二つお造りになったのは、両眼視機能面だけでなく、リスク分散の意味も在るのかもしれません。
眼科手術の王道は、片眼ずつの手術でした。医師は技術革新による過信や多忙な生活を送る患者さんのニーズに
迎合せず、患者さんは安易な手術を医師に求めないで下さい。

フラップレス・レーシックやPRKと呼ばれるフタを作らずに細いレーザービームで角膜を削る方法は、角膜を切開
する物理的侵襲を与えないためか、術後に十分な再生が起き、複数回の手術が可能です。
比較的新しいエネルギーであるエキシマレーザーによる生体蒸散後の角膜上皮再生についての長期におよぶ研究は
ありません。
フタを作らずにレーザーのみによる治療が、上皮再生のメカニズムに術後の視覚が影響するなら、フラップレス・
レーシックは機能面から生理的手段と言えるでしょう

PRKはレーザー近視手術の中で時代遅れの扱いを受けていますが、フラップレス・レーシックと同様、フラップを
作らない分、十分な屈折移行帯を矯正面に設ける事が可能で、調節過負担を軽減するでしょう。
現在もPRKはフラップに不具合が生じた際をはじめとして広く施術されています。
角膜を切って矯正するか、切らずに矯正するかの違いを動画(※1)・(※2)にて再度御確認下さい。  



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